愛と幻想のアジャイル

道産子ソフトウェアエンジニアの技術メモ

スクラムガイド2017と2020の差分の雰囲気をつかむための何か

スクラムガイド」が2020/11/18に3年ぶりに改訂された。

本記事の目的

本記事は、スクラムガイド2017と2020の違いをつかむための何かである。何かだが、何なのか筆者もよくわからない。
本記事の目的は、2017版から2020版へどのようなアップデートがされたか、概観をなんとなくつかむことである。
そのために、2017版と2020版の各章の文章を一部抜粋して、羅列することで、2つのガイドの違いを、『なんとなく』つかもうとしている。
実際つかめる保証は全然ない。あくまでなんとなく。

目次を確認

目次の差分を見てみる。(※末尾の数字はページ番号)

2017 2020
スクラムガイドの目的... 3 スクラムガイドの目的 ... 1
スクラムの定義... 3 スクラムの定義 ... 4
スクラムの用途... 3 -
スクラムの理論... 4 スクラムの理論 ... 4
透明性 ... 5 透明性 ... 5
検査 ... 4 検査 ... 5
適応 ... 4 適応 ... 5
スクラムの価値基準... 5 スクラムの価値基準 ... 5
スクラムチーム... 5 スクラムチーム ... 6
開発チーム... 6 開発者 ... 7
プロダクトオーナー... 5 プロダクトオーナー ... 7
スクラムマスター... 7 スクラムマスター ... 8
スクラムイベント... 8 スクラムイベント ... 9
スプリント... 8 スプリント ... 9
スプリントプランニング... 9 スプリントプランニング ... 10
デイリースクラム... 10 デイリースクラム ... 11
スプリントレビュー... 11 スプリントレビュー ... 11
スプリントレトロスペクティブ... 12 スプリントレトロスペクティブ ... 12
スクラムの作成物... 12 スクラムの作成物 ... 12
プロダクトバックログ... 12 プロダクトバックログ ... 13
- 確約(コミットメント):プロダクトゴール ... 13
スプリントバックログ... 13 スプリントバックログ ... 13
スプリントゴール ... 10 確約(コミットメント):スプリントゴール ... 14
インクリメント... 14 インクリメント ... 14
「完成(Done)」の定義... 15 確約(コミットメント):完成の定義 ... 14
作成物の透明性... 14 -
最後に... 15 最後に ... 15
謝辞... 15 謝辞 ... 15
  • 2020で追加された項目
    • 開発者
    • 確約(コミットメント):プロダクトゴール
    • 確約(コミットメント):スプリントゴール
    • 確約(コミットメント):完成の定義
  • 2020で削除または名前が変更された項目
    • スクラムの用途
    • 開発チーム
    • 作成物の透明性
    • 完成(Done)の定義

各項目の差分を見る

スクラムガイドの目的

  • 2020
    • 我々は1990年代初頭にスクラムを開発した。世界中の人たちがスクラムを理解できるように、スクラムガイドの最初のバージョンを2010年に執筆した。それ以来、機能的に小さな更新を加えながらスクラムガイドを進化させてきた。我々は共にスクラムガイドを支援している。
  • 2017
  • 所感
    • 2017に比べて「世界中の人たちがスクラムをりかいできるように」と「Why」が書かれている。全体的に2020では「Why」を明確にすることで、読者が「なるほど、そういう理由で~~が必要なんだ!」と理解がしやすいよう改訂されているようだ。

スクラムの定義

  • 2020
    • スクラムとは、複雑な問題に対応する適応型のソリューションを通じて、人々、チーム、組織が価値を生み出すための軽量級フレームワークである。
  • 2017
    • スクラム(名詞):複雑で変化の激しい問題に対応するためのフレームワークであり、可能な限り価値の高いプロダクトを生産的かつ創造的に届けるためのものである。
  • 所感
    • 2020では、2017まで時間が経つにつれて細かく「ここはこうすること」と指示的なものが増えていったのだが、「軽量級フレームワークである」と謳っているように、2020では最小限かつ十分なフレームワークに戻そうとしているようだ。

スクラムの理論

  • 2020
    • スクラムは「経験主義」と「リーン思考」に基づいている。経験主義では、知識は経験から生まれ、意思決定は観察に基づく。リーン思考では、ムダを省き、本質に集中する。
  • 2017
    • スクラムは、経験的プロセス制御の理論(経験主義)を基本にしている。経験主義とは、実際の経験と既知に基づく判断によって知識が獲得できるというものである。
  • 所感
    • 2017では経験主義のみ言及されていたが、2020では新たに「リーン思考」が追加されている。あと文章も簡略化して読みやすい。

透明性

  • 2020
    • 創発的なプロセスや作業は、作業を実行する人とその作業を受け取る人に見える必要がある。
  • 2017
    • 経験的プロセスで重要なのは、結果責任を持つ者に対して見える化されていることである。透明性とは、こうしたことが標準化され、見ている人が共通理解を持つことである。
  • 所感
    • 2017の「見える化」という単語を使わず、だれでも理解できる言葉に変わっている。あと2017では「結果責任を持つ者」と若干抽象的な言葉が、「作業を実行する人」「作業を受け取る人」と分かりやすくなった。

検査

  • 2020
    • スクラムの作成物と合意されたゴールに向けた進捗状況は、頻繁かつ熱心に検査されなければならない。
  • 2017
    • スクラムのユーザーは、スクラムの作成物やスプリントゴールの進捗を頻繁に検査し、好ましくない変化を検知する。
  • 所感
    • 2017では「How」が書かれていたが、2020では「What」が書かれて分かりやすくなっている。あと2020では「熱心に」と言葉が追加された。「熱意」が無ければいくら頻繁に検査しても上手くいかないということと受け取った。

適応

  • 2020
    • プロセスのいずれかの側面が許容範囲を逸脱していたり、成果となるプロダクトが受け入れられなかったりしたときは、適用しているプロセスや製造している構成要素を調整する必要がある。
  • 2017
    • プロセスの不備が許容値を超え、成果となるプロダクトを受け入れられないと検査担当者が判断した場合は、プロセスやその構成要素を調整する必要がある。
  • 所感
    • 文章が分かりやすくなっている。

スクラムの価値基準

  • 2020
    • スクラムが成功するかどうかは、次の5つの価値基準を実践できるかどうかにかかっている。確約(Commitment)、集中(Focus)、公開(Openness)、尊敬(Respect)、勇気(Courage
  • 2017
    • スクラムチームが、確約(commitment)・勇気(courage)・集中(focus)・公開(openness)・尊敬(respect)の価値基準を取り入れ、それらを実践するとき、スクラムの柱(透明性・検査・適応)は現実のものとなり、あらゆる人に対する信頼が築かれる。
  • 所感
    • 5つの価値基準は変わっていない。

スクラムチーム

  • 2020
    • スクラムの基本単位は、スクラムチームという小さなチームである。スクラムチームは、スクラムマスター1人、プロダクトオーナー1人、複数人の開発者で構成される。スクラムチーム内には、サブチームや階層は存在しない。これは、一度にひとつの目的(プロダクトゴール)に集中している専門家が集まった単位である。
    • スクラムチームは機能横断型で、各スプリントで価値を生み出すために必要なすべてのスキルを備えている。また、自己管理型であり、誰が何を、いつ、どのように行うかをスクラムチーム内で決定する。
  • 2017
    • スクラムチームは、プロダクトオーナー・開発チーム・スクラムマスターで構成される。
    • スクラムチームは自己組織化されており、機能横断的である。
  • 所感
    • 2017ではPO/開発チーム/スクラムマスターという区分けが「分断」に繋がる要素があった。2020では「スクラムチーム」という一つの単位なんだ!ということが強調され、その中にいろいろなロールの人がいるけど、あくまで「1チームなんだ」ということが強調されている。この変更は、チーム内で分断が起きるような事態を排除するためと思う。

開発者(2017では開発チーム)

  • 2020
    • 開発者はスクラムチームの一員である。各スプリントにおいて、利用可能なインクリメントのあらゆる側面を作成することを確約する。
  • 2017
    • 開発チームは、各スプリントの終了時にリリース判断可能な「完成」したプロダクトインクリメントを届けることのできる専門家で構成されている。
  • 所感
    • 2020では開発チームという言葉は使っていない。あくまでスクラムチームの一員であることを強調している。

プロダクトオーナー

  • 2020
    • プロダクトオーナーは、スクラムチームから生み出されるプロダクトの価値を最大化することの結果に責任を持つ。
  • 2017
    • プロダクトオーナーは、開発チームから生み出されるプロダクトの価値の最大化に責任を持つ。
  • 所感
    • 2017では「PO と 開発チーム」という区分けがあった。2020では「POもスクラムチームの一員」であることを強調している。

スクラムマスター

  • 2020
  • 2017
  • 所感
    • SMの責任は「スクラムの促進と支援(2017)」から「スクラムを確立させること(2020)」に変わっている。促進・支援するだけでなくその先の確立までやらないといけないよ、ということ。果たすべき責任は「価値基準」から「理論とプラクティス」を理解させることという具体的なものに変わっている。

スクラムイベント

  • 2020
    • スプリントは他のすべてのイベントの入れ物である。スクラムにおけるそれぞれのイベントは、スクラムの作成物の検査と適応をするための公式の機会である。
  • 2017
    • スクラムで規定されたイベントは規則性を作り出し、スクラムで定義されていないミーティングの必要性を最小化する。すべてのイベントは、時間に上限のあるタイムボックス化されたイベントである。
  • 所感
    • 2017では主語が抜けているが2020では「スプリント」とはっきり明言することで理解しやすくなっている。2017では「How」だったが2020では「What」になり、より本質的な点が理解ができるよう工夫をされている。

スプリント

  • 2020
    • スプリントはスクラムにおける心臓の鼓動であり、スプリントにおいてアイデアが価値に変わる。
  • 2017
    • スクラムの中心はスプリントである。これは、「完成」した、利用可能な、リリース判断可能なプロダクトインクリメントを作るための、1か月以下のタイムボックスである。
  • 所感
    • 2017ではスプリントを「タイムボックス」と定義したが2020では「心臓の鼓動」であり「アイデアが価値に変わる」と表現され、リズミカルな価値創造の場であると書かれ、なぜスプリントをやるのかがわかる記載になっている。

スプリントプランニング

  • 2020
    • スプリントプランニングはスプリントの起点であり、ここではスプリントで実行する作業の計画を立てる。
  • 2017
    • スプリントの作業はスプリントプランニングで計画する。
  • 所感
    • 2017では「How」の説明だったが2020では「What」になり本質的理解ができるよう変更されている。

デイリースクラム

  • 2020
    • デイリースクラムの目的は、計画された今後の作業を調整しながら、スプリントゴールに対する進捗を検査し、必要に応じてスプリントバックログを適応させることである。
  • 2017
    • デイリースクラムとは、開発チームのための15分間のタイムボックスのイベントである。
  • 所感
    • 2017では「How」。2020では「Why」が書かれている。

スプリントレビュー

  • 2020
    • スプリントレビューの目的は、スプリントの成果を検査し、今後の適応を決定することである。
  • 2017
    • スプリントレビューとは、スプリントの終了時にインクリメントの検査と、必要であればプロダクトバックログの適応を行うものである。
  • 所感
    • 2017では「How」。2020では「Why」が書かれている。

スプリントレトロスペクティブ

  • 2020
    • スプリントレトロスペクティブの目的は、品質と効果を高める方法を計画することである。
  • 2017
    • スプリントレトロスペクティブは、スクラムチームの検査と次のスプリントの改善計画を作成する機会である。
  • 所感
    • 2017では「How」。2020では「Why」が書かれている。

スクラムの作成物

  • 2020
    • スクラムの作成物は、作業や価値を表している。これらは重要な情報の透明性を最大化できるように設計されている。作成物を検査する人が、適応するときと同じ基準を持っている。
  • 2017
    • スクラムの作成物は、作業や価値を表したものであり、透明性や検査・適応の機会を提供するものである
  • 所感
    • 2020では透明性・検査・適応についてわかりやすい文章に変更されている。

プロダクトバックログ

  • 2020
    • プロダクトバックログは、創発的かつ順番に並べられた、プロダクトの改善に必要なものの一覧である。これは、スクラムチームが行う作業の唯一の情報源である。
  • 2017
    • プロダクトバックログは、プロダクトに必要だと把握しているものをすべて順番に並べた一覧である。

確約(コミットメント):プロダクトゴール

  • 2020
    • プロダクトゴールは、プロダクトの将来の状態を表している。
  • 2017
    • 項目なし
  • 所感
    • 2020で新たに追加された項目。

スプリントバックログ

  • 2020
    • スプリントバックログは、スプリントゴール(なぜ)、スプリント向けに選択されたいくつかのプロダクトバックログアイテム(何を)、およびインクリメントを届けるための実行可能な計画(どのように)で構成される。
  • 2017
    • スプリントバックログは、スプリントで選択したプロダクトバックログアイテムと、それらのアイテムをプロダクトインクリメントにして届け、スプリントゴールを達成するための計画を合わせたものである。
  • 所感
    • 2020では、なぜ、何を、どのように、の順で抽象から詳細を説明することで、分かりやすくなっている。

確約(コミットメント):スプリントゴール

  • 2020
    • スプリントゴールはスプリントの唯一の目的である。
  • 2017 (スプリントゴール)
    • スプリントゴールはスプリントの目的の集合であり、プロダクトバックログの実装によって実現するものである。
  • 所感
    • スプリントはスプリントの「目的の集合」→「唯一の目的」とシンプルになっている。

インクリメント

  • 2020
    • インクリメントは、プロダクトゴールに向けた具体的な踏み石である。
  • 2017
    • インクリメントとは、これまでのインクリメントの価値と今回のスプリントで完成したプロダクトバックログアイテムを合わせたものである。
  • 所感
    • 「How」の説明から「What」の説明に変更されている。

確約(コミットメント):完成の定義

  • 2020
    • 完成の定義とは、プロダクトの品質基準を満たすインクリメントの状態を示した正式な記述である。
  • 2017 (「完成(Done)」の定義)
    • プロダクトバックログアイテムやインクリメントの「完成」を決めるときには、全員がその「完成」の意味を理解しておかなければいけない。
  • 所感
    • 2017では指示的な内容だったが、2020では「What」を明確化している。

結論

  • 勢いでここまで書いて、全体的に2020版は「Why」「What」を明確化することで、読者に理解しやすい記述に変更された印象を受けた。
  • ただ、結局スクラムガイドをよく読まないとアップデート内容はよく分からない、ということが分かった気がする。
  • しかし、先に本記事を読んでから、スクラムガイドを読むことで、「2017年版はどんな感じだったっけ?」という疑問を減らすことに寄与できるかもしれない、寄与してほしい、寄与できたらいいな。